先日、ある記事を読みました。
「定年後に元部下から一切連絡が来ない人が勘違いしていたこととは」
という内容の記事です。
タイトルだけを見ると、定年後の人間関係について書かれた記事なのですが、私が気になったのは別のところでした。
それは、
「リーダーは部下にどう接するべきなのか」
という部分です。
記事では、部下を食事に誘って悩みを聞いたり、部下に好かれようとしたりすることに対して、かなり否定的な考えが書かれていました。
それよりも、部下とは明確に距離を置き、仕事の結果を厳しく評価する。
たとえそのときは嫌われても、それによって部下が成長すれば、何年も経ってから、
「あの人の下で働いたから今の自分がある」
と思ってもらえる。
それこそが本物の尊敬につながる。
大まかに言えば、そんな考え方でした。
これを読んで、私は少し違和感を持ちました。
結果だけを厳しく評価する上司の下で頑張れるだろうか
特に気になったのが、
部下とは距離を置き、仕事の結果を淡々と厳しく評価する
という考え方です。
もちろん、上司である以上、部下の仕事を評価する必要はあります。
結果が悪くても何でも許してしまうのであれば、上司としての役割を果たしているとは言えないでしょう。
ただ、私はこう思いました。
そんな上司の下で、本当に「この人のために頑張ろう」と思えるのだろうか。
私は長く会社員をしていましたが、幸いなことに、部下と距離を置いて仕事の結果だけを冷徹に評価するような上司には、ほとんど出会いませんでした。
距離を置く上司はいました。
しかし、その人も結果だけを見ていたわけではありません。
職場での人間関係など、いろいろなところを見ながら部下を評価していました。
逆に、
「この上司のためなら頑張ろう」
と思った上司はどんな人だったか。
振り返ってみると、やはり人間味のある人だったと思います。
私が頑張ろうと思えたのは、人間味のある上司だった
仕事で困ったときに助けてくれる。
うまくいかなかったときには励ましてくれる。
何か問題が起きれば親身になって一緒に考えてくれる。
一緒にご飯を食べに行ったり、飲みに行ったりする。
そこでは仕事の話だけではなく、仕事以外の話もする。
そうやって少しずつ人と人との関係ができていきました。
そして、
「この人なら信頼できる」
という気持ちが生まれていったのだと思います。
そういう上司の下にいたときには、
「この人の期待に応えたい」
「もう少し頑張ろう」
と思えました。
私は、これは仕事をするうえで結構大事なことではないかと思っています。
好かれる必要はない。でも信頼関係は必要
だからといって、私は上司が部下から好かれる必要があるとは思っていません。
私自身、上司だったころ、
「部下から好かれたい」
と思って仕事をしていたわけではありません。
人気者になる必要もないと思います。
しかし、
好かれる必要はなくても、信頼関係は必要だと思っています。
なぜなら、
信じられない人から言われたことを、「よし、やってみよう」とはなかなか思えないからです。
上司から何か指示された。
しかし、その上司をまったく信用していない。
「この人は自分のことなんて何も考えていない」
と思っている。
そんな状態で、部下が本気で仕事に取り組めるでしょうか。
もちろん仕事ですから、指示されたことはやるでしょう。
しかし、
「この人のためにも頑張ろう」
という気持ちには、なかなかならないと思います。
私は、仕事も結局は人と人との関係だと思っています。
評価をつけるだけなら、ロボットでもできる
私自身が部下を持つようになってから、大事にしていたことがあります。
それは、
部下の引き出しを増やしてあげることです。
上司のほうが、普通は部下より経験があります。
長く仕事をしていれば、
「こういう場合には、こんな方法もある」
「以前、似たような問題があったときには、こうやって解決した」
という経験が蓄積されています。
私は、それを部下に伝えることが上司の役割の一つだと思っていました。
単に、
「今回の結果は悪かった。だから評価を下げる」
それだけなら、極端に言えばロボットでもできると思います。
上司がいる意味は、そこではないと思うのです。
答えを教えるのではなく、一緒に考える
だから私は、部下が困っていたら一緒に考えるようにしていました。
「こうしろ」
と答えだけを教えるのではありません。
なぜうまくいかなかったのか。
どうすればうまくいくのか。
ほかに方法はないのか。
自分の経験からいくつかの方法を示しながら、一緒に考える。
そして、それで終わりではありません。
部下が実際にそれをやったのか。
やってみた結果、どうなったのか。
うまくいったのか。
うまくいかなかったのであれば、次はどうするのか。
そこまで追いかけていました。
そうやって一つずつ経験することで、部下の中に新しい引き出しが増えていきます。
次に同じような問題が起きたときには、自分で、
「この方法を使ってみよう」
と考えられるようになります。
私は、それが部下の成長だと思っていました。
居酒屋で話すことが、なぜ悪いのだろう
元の記事では、部下を食事に誘って悩みを聞くような行為についても否定的に書かれていました。
もちろん、ただ愚痴を聞いて、
「大変だな」
「分かる、分かる」
と言って終わるだけなら、それで部下が成長するとは限りません。
しかし私は、
食事に行くこと自体が悪いとはまったく思いません。
実際、私は部下と居酒屋でも仕事の話をしていました。
会議室では話せないこともあります。
上司と部下という関係では、会社の中ではなかなか本音を言えないこともあります。
でも、一緒に食事をしながら話していると、
「実は、こういうことで困っています」
という話が出てくることもあります。
そこから、
「だったら、こういう方法もあるんじゃないか」
と一緒に考えることもできる。
そして仕事以外の話もする。
そういう時間を積み重ねることで、お互いのことが少しずつ分かってきます。
私は、それも信頼関係を作る一つの方法だったと思っています。
「嫌われても部下を成長させる」だけが正解なのか
もちろん、上司はいつも優しくしていればいいわけではありません。
厳しく言わなければならないときもあります。
部下から嫌われると分かっていても、言わなければならないこともあるでしょう。
私自身にも、部下にかなり厳しく接した経験があります。
ですから、
「嫌われてもいいから、必要なことを言う」
という考え自体を否定するつもりはありません。
ただ、私が違和感を持つのは、
「部下を成長させるためには、嫌われる覚悟で厳しく接しなければならない」
という一つの考え方だけになってしまうことです。
嫌われながら成長させる方法もあるでしょう。
一方で、良い人間関係を作りながら成長させることもできると思います。
そのときの部下や状況によって、接し方を変えればいい。
わざわざ、
「私は部下に嫌われる。それがプロの上司だ」
と考える必要はないのではないでしょうか。
厳しさと人間関係は両立できる
私は、
厳しくすることと、良い人間関係を作ることは、反対のものではない
と思っています。
信頼している上司から厳しいことを言われるのと、信頼していない上司から同じことを言われるのでは、受け止め方も違います。
「この人は自分を潰そうとして言っているわけではない」
「自分のために言ってくれている」
そう思える関係ができていれば、厳しい言葉でも受け止められることがあります。
だから私は、部下から好かれる必要はないと思います。
でも、
部下から信頼されることは大事だと思います。
好かれることと、信頼されることは別です。
そこを一緒にしてしまう必要はないと思います。
定年後に元部下から連絡が来なくても、それでいい
そして、もう一つ。
元の記事では、現役時代に厳しく部下を育てることで、何年も経ってから、
「あの人の下で働いたから今の自分がある」
と思ってもらえる。
その尊敬が定年後も自分を支えてくれる、というような話がありました。
でも私は、ここにも少し違和感があります。
そもそも、
定年後まで元部下から連絡してもらう必要があるのでしょうか。
私は49歳で会社を辞めました。
退職してから2年くらいは、元同僚から連絡が来ることもありました。
しかし、その後はほとんどありません。
でも、私はそれを寂しいとも思いません。
「そんなものだろう」
と思っています。
考えてみれば、私自身も現役時代、退職していった上司や先輩にずっと連絡していたわけではありません。
では、その人たちへの感謝がなかったのか。
そんなことはありません。
お世話になった上司もいます。
今でも、
「あの人には助けてもらったな」
と思う人もいます。
でも、連絡はしていません。
連絡しないことと、感謝していないことは別
会社にいるときには毎日のように顔を合わせていた人でも、会社を辞めれば、それぞれ別の生活になります。
時間が経てば連絡する回数も減っていく。
私は、それが自然なことだと思っています。
だから、
「退職したら元部下から連絡が来なくなった」
ということだけで、
「自分は部下から尊敬されていなかった」
「良い上司ではなかった」
と考える必要はないと思います。
連絡しないことと、感謝していないことは別です。
何十年も連絡を取り続けなくても、
「あの上司には世話になった」
という記憶は残ります。
それで十分ではないでしょうか。
上司の仕事は、退職後に好かれることではない
私が上司だったころ、退職した後も部下から連絡してもらおうと思って仕事をしていたわけではありません。
部下から好かれるために仕事をしていたわけでもありません。
そのとき目の前にいる部下が困っていれば、一緒に考える。
自分が持っている経験を伝える。
部下の引き出しを一つでも増やす。
そして、その部下が自分で仕事をできるようになっていく。
それが上司の役割だと思っていました。
必要なら厳しく言う。
でも、だからといって部下と距離を置く必要はない。
食事に行ってもいい。
仕事以外の話をしてもいい。
笑って話してもいい。
大切なのは、
好かれることではなく、信頼されること。
そして部下が成長できるように、一緒に考えること。
私は会社員を辞めて7年以上たった今でも、その考えは変わりません。
元部下から連絡が来なくても構いません。
どこかで元気にやっていて、たまに昔のことを思い出したとき、
「あのとき、あんなことを教えてもらったな」
と思ってくれれば、それで十分です。
そして、たとえ思い出してくれなくても、それはそれでいい。
会社を辞めたら、それぞれ自分の人生を生きていく。
私は、それでいいと思っています。


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